たとえ今日、すべての記憶を無くしても
忘れたくない想い出の品が
あなたにはありますか?
その男性は紙袋を抱えて店に入ってきた。
いまだ道に残る雪が、目にまぶしい
日曜日の昼下がりである。
品のあるキレイな白髪だが、
作業服のような服を着て、
よれてくたびれた大きな紙袋を持っていた。
入ってくると、レジ台の中で
靴を磨いていた僕に言う。
『 この革のジャンバーを
直してもらいたいのですが。。』
当店だと直しはやっていないのである。
それを伝えた上で、一応いつものように
お悩みをお聞きする。
30年ほど前に買った革のジャンバーだが
表面が所々傷つき、色がハゲているので
それを直したいとのこと。
『 あまり高くつくなら、捨てちゃって
新しいの買ったほうがいいよね。 』
ジャケットを見せてもらうと
薄いグリーンかかったラムのレザーである。
所々、傷があり確かに目立つが、
30年前のジャンバーの割には
革の状態はとても良い。
まだまだ、全然着ることができることを
男性に伝える。
しかし補色はちょっと難しい。
ラムのレザーはデリケートなので
水分や油分が少し入るだけでも
シミになりやすい。
正直、素人が自分で色の補色を
試みるべきアイテムではないのである。
近くにある革のお直し専門店を
ご紹介した。
ただ、一応補色するという事だけなら
当店のクリームでも出来なくはない。
すべてのリスクを説明したうえで
ジャンバーの目立たない部分で
色の補色を試しにしてあげた。
男性は僕の処置が気に入ったようである。
でも、革のお直し屋さんのほうが
プロなので一度そちらに
行ってもらうことにした。
その男性、しばらくすると
当店に戻って来た。
『 いやー、聞いたらね、
なんだか他の場所から 革を切り取って
それを張り付けるというんだよ。
だから、そんなことはできないから
もう、すぐ帰ってきた。』
『 そうでしたか。スイマセン。
かえってご足労かけちゃいましたね。』
『 いやいや。。
実はね、このジャンバー、死んだ女房に
昔、買ってもらったんだ。』
『 そうなんですか。。
奥様、まだお若かったんじゃないですか。』
『 うん、子供がまだ幼稚園でね。
がんセンター行ったんだけどダメだった。』
『 そうでしたか。
じゃあ大切なジャンバーですね。
革もいいですし、まだまだこれから
着て頂けますよ。』
『 そうか、ありがとう 』
男性は、クリームを購入し
帰り際に言った。
『 あなたは人間性がいいね。
何かあったらまた来るよ。 』
たとえ今日、すべての記憶を無くしても
忘れたくない想い出の品が
あなたにはありますか?
革のお品はあなたと共に年月を歩み
想い出をその風合いに刻んでくれる
アイテムです。
あなたの想い出の革製品には
どのような年月を刻んできましたか?
卒業式や入社式
クリスマスや誕生日
デートや旅行や結婚式や引っ越し
新しい命の誕生
そして別れ
人が出会いと別れをくり返し
想い出を刻んでいく中で
あなたの革のお品もその時間の中に
共にいたかもしれません。
もしその大切な思い出のつまった
革製品がくたびれてしまったら。
そしてそのお手入れ方法が
わからなくなってしまったら。
是非、一度僕にご相談ください。
津田沼にあるガレージセールという
古着屋です。
そのお店の中で
僕はいつでもあなたを待っています。
青山健一
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